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研究組織

ファンディングエージェンシー

日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業 (AMED-CREST, PRIME)
「健康・医療の向上に向けた早期ライフステージにおける生命現象の解明」研究開発領域

佐々木 裕之 (ささき ひろゆき)
研究開発総括
九州大学生体防御医学研究所 主幹教授

武田 洋幸 (たけだ ひろゆき)
副研究開発総括
東京大学大学院理学系研究科 教授

研究チーム

有馬 隆博(ありま たかひろ)

有馬チーム

研究代表者
有馬 隆博(ありま たかひろ)
東北大学大学院医学系研究科・教授

 私たちの研究チームは前回のAMED-CREST研究(2012~2017年度)「生殖発生に関わる細胞のエピゲノム解析基盤研究(代表 佐々木裕之)」において、国際エピゲノムコンソーシアム(IHEC)に参画し、正常なヒト胎盤を構成する3種類の栄養膜細胞の「標準エピゲノムプロファイル」を作成し、国内外にデータを公開してきました(PLoS Genet 2014, Am J Hum Genet 2016, Cell 2016)。

 産婦人科医である私は、このような基礎的な研究成果をヒトの病気の解明に役立てたいと考えてきました。近年の晩婚化の社会情勢と生殖医療技術の普及に伴い、妊娠高血圧症候群(HDP)や低出生体重児(SGA)などの妊娠合併症の発症頻度は、年々増加傾向にあります。これらの疾患の病因の一つは、胎盤の分化や機能の異常(poor placentation)ではないかと推測されていますが、この仮説は未だ検証されるには至っていません。またこれら疾患は、年齢、環境、栄養、ストレスなどが発症時期や重症度に影響を与えるため、疾患の病因や病態にエピゲノムの異常が関与する可能性が指摘されています。実際に、エピジェネティックな機構で制御されるインプリント遺伝子の異常が、妊娠合併症の発症に関与するという報告もあります。妊娠合併症の効果的な治療法はほとんどないため、安静と食事療法のみで対処する場合が多く、重症化した場合は緊急帝王切開により母児の生命を救う必要があります。本研究では、疾患の診断バイオマーカーの探索を行うだけでなく、妊娠合併症の治療に有効な医薬品の開発や胎内環境の評価に活用できる「胎盤オルガノイドモデル」の作製を目指しています。

 近年、低出生体重児等の増加に伴い、将来の生活習慣病の発症頻度が増加することが不安視されています。また、医療経費は年々高騰し、国の財政を圧迫しています。妊娠女性の生活環境を評価し、改善することは、将来の児の生活習慣病発症リスクを低減し、医療経費の抑制にもつながることが期待されます。現状では、妊婦を対象とした医薬品の開発は、胎児への影響を十分考慮しなければならないため、ほとんど行われていません。疾患TS細胞や胎盤オルガノイドを用いた医薬品の有効性、安全性試験は、臨床第一相試験として有用で、将来、製薬企業の研究開発での適用が大いに期待できます。また、動物実験の代替法としても有望です。加えて、ヒトTS細胞を用いた技術は、サプリメント(栄養補助食品)や化粧品の開発など、多様な産業ビジネスの拡大につながる可能性が十分あると考えられます。

 本研究では、ヒト胎盤の発生・分化を制御する分子メカニズムの理解を深めるため、1)胎盤異常を呈する疾患 (HDP,SGA)のエピゲノム変異を明らかにし、病態解明に資するデータを蓄積します。また、疾患特異的な変異が診断バイオマーカーとして有用かどうか大規模コホート調査の検体を用いて検討します。2)HDP由来の胎盤細胞より疾患TS細胞を作製し、胎盤異常の病態を再現します。3)生体および疾患TS細胞から得られた「疾患エピゲノム」は、IHECに登録します。4)マイクロ流路デバイスを用いて、ヒトTS細胞あるいはTSオルガノイドの三次元培養系を確立します。本研究の成果は、周産期疾患の病態の解明や診断マーカーの開発だけでなく、将来、胎内環境の評価系や医薬品の開発、ヘルス産業などにも応用することができると考えています。

 本研究を開始するにあたり、産婦人科領域の研究室と、バイオインフォマティクスを専門とする研究室、微細加工技術を用いたデバイス開発を得意とする工学研究室が、強力なタッグを組む体制を整えました。私たちは本研究の遂行を通して、エピゲノム研究の推進と世界の人々の健康維持に広く貢献することを目指します。

研究代表者
有馬隆博 東北大学大学院医学系研究科 教授
分担者
梶 弘和 東北大学大学院工学研究科 准教授
須山幹太 九州大学生体防御医学研究所 教授
牛島 俊和 (うしじま としかず)

牛島チーム

研究代表者
牛島 俊和 (うしじま としかず)
星薬科大学 学長

研究内容
 思春期・若年成人(AYA)のがんは複雑で、胎児期の発生の不具合が残っていた胎児性腫瘍、この時期に特徴的な骨腫瘍の他に、成人・高齢者のがんが若い頃に発生した腫瘍に大別されます。成人・高齢者によく見られる胃がん・子宮がん・乳がんなどがAYA世代に発生してしまった場合、成人・高齢者に発生した場合に比べてより高い悪性度を示してしまいます。しかし、その理由はほとんど分かっていません。

 私たちは、今まで、ピロリ菌感染などによる慢性炎症がエピゲノムの異常を引き起こし、胃がんなどのがんが発生することを解明してきました。ピロリ菌感染によりどのくらい胃の細胞のエピゲノムが異常になったかを測定する方法を開発したところ、異常の程度と胃がんになりやすさとはとてもよく相関することも発見しました。マウスにピロリ菌を感染させるとヒト同様にエピゲノム異常が誘発され、その程度は感染期間が長いほどより大きくなりました。

 そもそも、エピゲノムは細胞が環境に適応する仕組みとして重要です。小児期・思春期・若年成人期には、様々な環境要因に応じて細胞のエピゲノムのチューンアップが行われると考えられます。そのために、環境に適応する能力「可塑性」が高いエピゲノムをもつと思われます。実際、幼少のマウスの胃の細胞は、成体のマウスの胃の細胞と比べて、高い可塑性を示しました。しかし、この高い可塑性は、ピロリ菌感染などの発がん因子に曝露した際には、エピゲノムの不安定性という弱点にもなり得るのでは、と考えました。

 そこで、本研究では、小児・AYA世代の細胞がもつ高い可塑性が、ピロリ菌感染などの発がん因子に曝露したときには逆にエピゲノムの不安定性に繋がってしまうことを証明します。主にマウスを用いて、エピゲノムの可塑性を保つことに関与する遺伝子、可塑性が不安定性に転じる際に関与する刺激や遺伝子を解明し、解明した遺伝子を人為的に破壊または導入したマウスを用いてそのことを証明します。さらに、マウスモデルを用いて、悪性度の高いがんを抑制する方法を解明して、AYA世代の悪性度が高いがんを予防する戦略を樹立します。

IHECヘの貢献
 エピゲノム可塑性に関与する遺伝子を突き止めるために、幼少マウスと成体マウスについて、胃の複数種類の細胞(上皮細胞、線維芽細胞、免疫細胞など)について、複数種類のエピゲノム修飾(DNAメチル化、H3K27me3、H3K4me3など)を解析します。これは、かなり複雑な解析になりますので、CREST-PRIME「早期ライフ」の中で中戸隆一郎博士と協力します。その際に開発される解析手法は、国際ヒトエピゲノムコンソーシアム(IHEC)の「統合解析」という活動に大きく貢献できる予定です。同時に、ヒトの細胞で得られたエピゲノムデータはIHECに登録し、その成果とする予定です。

研究代表者
牛島 俊和
(うしじま としかず)
星薬科大学 学長
課題名「エピゲノム不安定性の機構とAYA癌予防戦略の解明」
主たる共同研究者
本田 浩章
(ほんだ ひろあき)
東京女子医科大学・実験動物研究所・所長・教授
課題名「エピゲノム不安定性解明のための遺伝子動物作製と解析」
中戸 隆一郎(なかと りゅういちろう)

中戸チーム

研究代表者
中戸 隆一郎(なかと りゅういちろう)
東京大学 定量生命科学研究所 大規模生命情報解析研究分野・准教授

研究内容
 ヒトゲノムプロジェクトによってヒトゲノム配列が解読された2003年以降、ゲノムに含まれる重要な機能部位の注釈付けが世界中で行われてきました。ゲノム配列には個人差があり、それによって種々の疾患の発症リスクが異なること、ゲノムの修飾状態であるエピゲノムは加齢や生活ストレスに由来する体の情報を反映しうること、これらの情報は次世代に遺伝し、子孫の疾患リスクにも影響する可能性があることなどがわかってきていますが、具体的な制御メカニズムや重要なゲノム領域はいまだ不明点が多く残っています。

 私たちのグループは次世代シーケンサ(NGS)を用いたゲノム・エピゲノム情報解析を専門としており、そのための新規解析手法の開発と、それらを用いた知見獲得に一貫して取り組んでいます。私自身はかつてIHEC Japanの第一期であるCRESTプロジェクト「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」に白髭チームの一員として参加していました(白髭先生はChIP-seq解析の世界的先駆者の一人です)。そこで心臓・肺など9つの部位の血管内皮細胞を対象にエピゲノムデータ・遺伝子発現データを収集し、大規模なエピゲノム・転写解析を行い、エピゲノム状態と遺伝子発現やゲノム立体構造との相関を明らかにし、得られた知見や開発した新規手法を国際誌に発表してきました。その中で得られた経験を更に拡張・展開すべく、最近では「データ駆動型大規模NGS解析」に力を注いでいます。データ駆動型大規模NGS解析は大量のNGSデータを一挙に解析し、データそのものに含まれる特徴情報を用いることで既存知識に頼ることなく新規の知見を得る方法です。大量のNGSデータを横断的に解析することから、ゲノム・エピゲノムに含まれる複雑な関係性・制御機構を抽出できる可能性を持ちます。

 本IHECプロジェクトをはじめとする種々の国際エピゲノムデータベースプロジェクトによって、利用可能なエピゲノムデータは急速に増大しており、そのような大規模解析の実現は現実味を増してきました。実際、現在のIHEC第二期においても、生成されたIHECデータを活用した統合解析手法の開発は中心的課題となっています。技術的要因によって品質にばらつきを生じやすく個人差も大きいエピゲノムデータから信頼性高く情報抽出することは極めて困難であり、そのような統合解析の最大のネックとなっています。私自身もデータ駆動型大規模NGS解析を実現するためには解析技術を更に洗練していく必要があると痛感していますが、IHECのミーティングで他国の情報解析担当とそのような話をしますと、この問題は世界共通であり、まさにIHECのような国際プロジェクトにおいて議論し克服していくべき課題であると感じました。我々はエピゲノム情報解析の日本代表として世界最先端の専門家と議論しながらデータ駆動型解析を推進し、エピゲノム研究の更なる発展に貢献することを目指します。

IHEC委員およびワーキンググループメンバー

International Scientific Steering Committee

牛島 俊和
星薬科大学 学長

佐々木 裕之
九州大学 生体防御医学研究所 エピゲノム制御学分野・主幹教授

武田 洋幸
東京大学大学院 理学系研究科・教授

Assay Standards & Data Ecosystem

木村 宏
東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター・教授

須山 幹太
九州大学 生体防御医学研究所 情報生物学分野・教授

久保田 直人
九州大学 生体防御医学研究所 情報生物学分野・助教

Bioethics

金井 弥栄
慶應義塾大学 医学部 病理学教室・教授

Integrative Analysis

中戸 隆一郎
東京大学 定量生命科学研究所 大規模生命情報解析研究分野・准教授

須山 幹太
九州大学 生体防御医学研究所 情報生物学分野・教授

過去の研究組織 (2011-2018)